ロイアイの日に間に合わなかった突発小説です。







赤い糸






珍しいこともあるものだ。
大きな事件もなければ処理が必要な書類も全くなく、よく言えば平穏で、悪く言えば暇なある晴れた日の昼下がり、ロイ・マスタング大佐のオフィスでリザは一人、恋愛小説を読みながら暇をもてあましていた。


『運命の赤い糸の伝説』

小指と小指を(見えない)運命の赤い糸で結ばれた男女が出会い、様々な困難を乗り越え、最後には幸せを掴むというあまりにも在り来たりな内容の三文小説であった。


「下らないわね。」


読み終わったリザの最初の言葉がこれだった。目に見えないものでお互いが結ばれているなどと、どうして分かるというのだろう?
それに生まれる前からすでに結ばれる相手が決まっているなどという考え方も、現実主義者であるリザには信じ難いことであった。


「何が下らないんだ?」


いつの間にオフィスに戻ってきたのだろうか。そこにはさっきまでは居なかったはずのこの部屋の部屋主が立っていた。


「大佐。いつお戻りに??」

「10分ほど前かな。君があまりも熱心にその本を読んでいたものだから、声をかけるのは気が引けてね。」


確かに、私が大佐の気配に気が付かないことなど殆どない。自分で思っていた以上に、私はこの小説に引き込まれていたようだ。


「で、何が下らないんだ?その本がかい?」

「別に、大したことではありませんよ。コーヒーでもお淹れしましょうか?」

「いや、いいよ。そんなに喉が渇いているわけではないしね。」


そう言いながら、私のすぐ隣まで来た大佐は私の目の前に置かれた小説を手に取り、ペラペラと中身をめくった。


「『赤い糸の伝説』か・・・。
 生まれる前から出会うことが決まっていた運命の男女は、互いの小指と小指が見えない運命の赤い糸 で結ばれている。
 うん、なかなかロマンチックな話じゃないか。君は信じているのかい?」

「私は、運命など信じていませんから。」

「どうして?」

「『運命』なんてそんなあやふやな物で、自分の生きる道を決めたくなどありませんから。」

「なるほど。うん、実に君らしい意見だ。」

「大佐は信じてらっしゃるのですか?」

「私かい?そうだな、私も基本は君と同じ考えだ。でも、運命を感じずにはいられない事もないわけ  ではないよ。」


大佐の意味ありげな言葉に私が戸惑っている間、どこから持ってきたのか、大佐の手には数10cmの赤い糸が握られており、あっという間に私と自分の小指にその糸を結び付けてしまった。


「大佐??一体何を・・・?」

「私だって、『運命』なんかに自分の生き方を決められたくはないさ。
 自分の生き方は自分で決めるものだ。
 でもね、君との出会いは『運命』だったんじゃないかと思うことがあるんだ。
 ほら、今、現に私達は赤い糸で結ばれているじゃないか。」

「自分で結んでおいて、何を馬鹿なことを・・・。」

「そうだな。でも私はそういう人間だ。
 やはり目に見えないものなど信じてはいないものでね。」


その通りだ。この人はそういう人なのだ。目に見えないものさえも見えるものに変えてしまう。
そんな人に付いて行くと決めたのはやっぱり私自身。
ああ、やっぱり私は運命など信じない。

信じるのは貴方だけ。







*あとがき*

突然書きたくなって書いた『運命の赤い糸伝説』。
何だかありきたりな話になっちゃたけど、結構気に入ってたりします(笑)
読んでくださって、ありがとうございました。