どこまでもどこまでも。
思いを乗せて、空高く舞い上がれ、しゃぼん玉。






しゃぼん玉







「全くおまえは、なんでいつも帰ってくるたびにこんな大荷物なんだよ…。」

「いいじゃない、別に。女の子はねー、色々と準備が必要なのよ。まあ、がさつなあんたには分からないだろうけど。」

1週間の帰郷を終えたかごめは、迎えに行った犬夜叉とともに骨喰いの井戸から戦国時代へと帰ってきた。

「おお、かごめじゃ!!弥勒、珊瑚。かごめが帰ってきたぞー!!」

かごめの姿を見つけた七宝は、一目散にかごめの腕の中に飛び込む。

「ただいま、七宝ちゃん。」

「かごめ様、お帰りになられたんですね。」

「おかえり、かごめちゃん。あっちの世界はどうだった??」

「ただいま。弥勒様、珊瑚ちゃん。うん、なんとかなったかな。ごめんね、みんなにも迷惑かけちゃって。」

期末テストが近かったため、かごめは渋る犬夜叉に頼み込んで、一度帰郷させてもらっていたのだ。

「そうだ。七宝ちゃん。お土産があるの。えっと…。そう、これこれ。」

犬夜叉が持っていた大きなリュックサックから、かごめが取り出したのはピンク色の小さな容器とストロー。

「なんじゃ??これは。かごめ、これは飲めるのか??」

容器のふたを開け、中に入っている液体を覗き込むようにしながら、七宝はかごめに尋ねる。

「あ、だめよ。七宝ちゃん、それ飲んじゃ。これはね、しゃぼん玉っていって、私の世界の子供たちの遊び道具の一つなの。」

「遊び道具??どうやって遊ぶんじゃ??」

「うふふ、こうやって。」

そう言って、かごめは自分用に取り出した、もう1つの『しゃぼん玉』とやらの容器を開ける。それから中に入っている液体を、ストローの先に付けて、それを口へと持っていく。

そして、ふーと静かに息を吐き出すと、小さな球体のものがいくつも飛び出してみせた。

その球体は、光の加減でいろんな色に輝いて見せ、犬夜叉たちを驚かせる。

「おお!!すごいぞ、きれいじゃのう…。」

「これはこれは、なかなか見事なものですな。」

「でしょう??これを『しゃぼん玉』って言うのよ。このストローを、こうやってこの液に付けて…。」

かごめの説明をよそに、七宝の好奇心に満ちた瞳は、ふわふわと浮かぶしゃぼん玉に向けられる。

するとその中の1つが、風に乗せられて七宝の目の前に飛んできた。当然のように差し出されたその指は、しゃぼん玉の薄い膜を破り、一瞬にして消してしまったのだ。

「か、かごめーーー。『しゃぼんだま』が消えてしまったぞ…。」

「そうなの。しゃぼん玉はね、とっても壊れやすいものだから、触ったり強い風が吹いたりすると、簡単に割れてしまうのよ。」

そう言って、かごめがまた新しいしゃぼん玉を作ると、たくさんのしゃぼん玉たちに七宝や犬夜叉たちは取り囲まれた。

「おらもやってみたい!!」

「ええ、いいわよ。七宝ちゃんの分はこれね。」

そう言って、しゃぼん玉セットを七宝に渡すと、早速ふたを開けてしゃぼん玉遊びを始めた。

しかし、息の吹き方がよく分からない七宝のしゃぼん玉は、かごめのように綺麗な球体になることはなく、すぐに割れてしまうのだ。

「むずかしいのう…。かごめ、どうやったらかごめみたいに上手にしゃぼん玉が出来るんじゃ??」

「えっとね、強く息を吹き込み過ぎるとだめなのよ。もうちょっと静かにやると、うまくいくと思うわ。」

七宝は言われた通りにもう一度息を吹き込むと、今度は小さなしゃぼん玉たちがたくさん飛び出してきた。

「出来た!!出来たぞ!!」

「そうそう、その調子。上手いじゃない、七宝ちゃん。あ、そうだ。皆の分もあるんだけど、やらない??はい、これは犬夜叉の分。」

かごめは犬夜叉の前に、しゃぼん玉セットを差し出す。

いつもの犬夜叉なら、めんどくさそうに「そんな子供だましなんて、俺は興味ねえ。」とか言いそうなところなのだが、今回は珍しく、「お、おう…。」と言ってそれを受け取ると、七宝と同じようにしゃぼん玉作りを始めた。

犬夜叉が作ったしゃぼん玉は、七宝の分よりもずっと大きくて、風に乗ってふわふわと高く舞い上がっていく。

「見ろ、七宝。俺の『しゃぼんだま』はお前のよりずっとでかいぞー。やっぱり俺みたいな強い奴は、『しゃぼんだま』も大きいのが作れんだな。」

へへーン、と犬夜叉は鼻を大きく膨らませた。

「なにを!?おらだって大きいのが作れるぞ!!見とれ、犬夜叉!!」

そう言って、犬夜叉よりも大きなしゃぼん玉を作るべく、七宝は試行錯誤を重ねるものの、そのしゃぼん玉たちはストローの先から離れる前に割れてしまって、空へと舞い上がることはなかった。

「なんだ、七宝。お前下手だなー。」

犬夜叉のからかいの言葉のせいで、七宝は今にも泣き出しそうになってしまう。

「犬夜叉、おすわり!!」

「グェ!!」

まるで踏まれたカエルのような声を出して、犬夜叉はその場に倒れこんだ。

「かごめーー。てめえ、何しやがる!!」

「まったく、あんたはどうしてそうデリカシーがないのよ…。七宝ちゃんみたいな小さい子をいじめるの、いい加減やめなさい!!」

まだブイブイと文句を言っている犬夜叉を無視して、かごめは弥勒と珊瑚にもしゃぼん玉セットを差し出した。

「これが弥勒様と珊瑚ちゃんの分よ。良かったら一緒にやらない??」

「ありがとうございます、かごめ様。ですが私は見ているだけでいいですよ。とても綺麗で、見ているだけでも十分楽しめますから。珊瑚、お前はやってみたらどうだ??」

「う、うん…。でも私、今ちょっと用事思い出しちゃったんだ。だからみんなで遊んでて。ごめんね、かごめちゃん。」

「ううん。それは構わないんだけど…。」

「じゃあ、私先に楓様の所に戻ってるから。」

そう言って、珊瑚は犬夜叉たちに背を向け、楓の村へと1人先に帰って行った。

「どうしたのかな、珊瑚ちゃん…。」

「かごめさまが実家に戻られている間、珊瑚も退治屋の里に里帰りをしていたのですよ。かごめさまが戻られるほんの数刻前に帰ってきたばかりなので、少し疲れているのだと思います。なに、心配はいりませんよ。」

「ならいいんだけど…。」

「では、私は少し珊瑚の様子を見てきますから、かごめさまたちはここでしばらく遊んでいてください。」

「うん、そうしてあげて。弥勒様、よろしくね。」

かごめに別れを告げた後、珊瑚を追って、弥勒もまたその場を後にした。

楓の家に戻ってきた弥勒は、やはり珊瑚の姿を見つけることは出来なかった。

楓に珊瑚の所在を尋ねても、かごめが帰ってきて以降は戻っては来ていないようで、分からないままだった。

先ほど珊瑚が一行と別れて1人先に帰った時、珊瑚の様子が少しおかしいことに弥勒は気が付いていた。

もっと正確に言えば、かごめたちがしゃぼん玉遊びを始めた頃からだ。

何が理由なのかは弥勒にも分からないが、どこか寂しげな表情で、珊瑚はその様子をじっと見つめていた。

「とにかく、まず珊瑚を探さなくては。」

弥勒がかごめたちと別れ、楓の村へと向かっていた頃。

珊瑚は1人、村へと帰らずに村はずれにある河原に向かっていた。

幸いにも今日は天気も良く、川の水の流れもまるでさらさらと音を立てているかのように穏やかに流れ続ける。

けれど、そんな穏やかな気候とは裏腹に、珊瑚の心には暗雲が立ち込めていた。

「かごめちゃんには悪いことしちゃったな…。」

仲間たちが楽しんでいる所に水を差してしまったという自覚はある。申し訳ない気持ちはもちろんあるものの、珊瑚はどうしてもあの『しゃぼん玉』とやらが苦手だった。

退治屋の里に父上や里のみんなのお墓詣りに行ったばかりだというのも、もしかしたら原因の1つだったのかもしれない。

河原に腰をおろし、川を1人で眺める珊瑚の足元へ、愛猫の雲母が心配そうな表情でやってくる。

「みゃう…。」

「ごめんね、雲母。心配してくれてるの??私は大丈夫だよ。」

雲母の頭をそっと撫でていると、シャランという聴き慣れた音と共に、よく見知った影が珊瑚の周りを覆った。

「法師さま…。」

「珊瑚。隣、座ってもいいか??」

「う、うん…。」

珊瑚の返事を聞くと、弥勒は静かにその隣に腰を下ろした。

「どうしたの??法師さま…。みんなと一緒じゃなかったの??」

「お前が心配だったので、探していたのですよ。」

「…。」

「琥珀のことか??」

どうしたのか、などとは聞く必要もないと弥勒は感じていた。

たった一晩で大切な仲間を一度に失った彼女に遺された、たった一人の自らの命よりも大切な弟。その弟でさえも、四魂のかけらというあまりにももろいかけらでその命を繋いでいる。今どこにいるのかさえも分からない…。

弥勒のその問いかけに、珊瑚は一瞬表情を曇らせる。それが何よりもの応えだった。

「退治屋の里で、何かあったか??」

そんなことはない、と珊瑚はふるふると頭を振るう。

「ならば一体…。」

「しゃぼん玉…。」

弥勒の言葉を遮るように、珊瑚がつぶやく。

「しゃぼん玉??かごめ様が持ってきて下さった、あの遊び道具がどうかしたのか??」

「大したことじゃないんだ。ただ…。」

再び黙り込んでしまった珊瑚を、弥勒は何も言わずに見つめる。

「あの『しゃぼん玉』がね、なんだか四魂の玉に似てるような気がしてさ…。」

確かに言われてみれば、あの丸い透明な球体は彼らが追い求めているあの玉に似ていると言えなくもない。

「さっき、七宝がかごめちゃんが作ったしゃぼん玉を手で触った時、割れちゃったでしょう。あのしゃぼん玉…。」

その言葉を聞き、弥勒は珊瑚が言わんとしていることが分かったような気がした。

きっとこの少女にとって、あの『しゃぼん玉』が似ていたのは丸い四魂の玉ではなく、むしろその割れたかけらだったのではないか…。

割れた後、ほんの一瞬だけその形を留めたあのかけらは、どこか四魂のかけらを彷彿とさせるものだった。

形だけではなく、その儚さも…。

一瞬にして消えてしまうそのかけらは、弟の命を繋いでいるかけらの不完全さを連想させた。

弥勒の顔を見ることもせず、黙って下を向いてしまった珊瑚を雲母は心配そうに見上げる。

あまりにも小さく見えるその肩を、思わず弥勒は、静かに抱き寄せると、珊瑚は抵抗することもなく体重を弥勒へと預けてくる。

「珊瑚…。無理にとは言わんが、何でも1人で抱え込むな。私は琥珀の代わりにはなれないかもしれんが、いつでもお前のそばにいるから…。」

「ううん、そんなことない…。法師さまも琥珀と同じくらい大切だもん。こうやってそばにいてくれるだけで嬉しい…。」

「そうか…。」

そう言って、弥勒は珊瑚にまわされた腕に一層力が込められる。

どれくらいの時間、そうしていたのだろうか…。

弥勒と珊瑚がいる川岸とは反対側から、七宝たちの声が聞こえてきて、2人はハッと我に返った。

「やった、出来たぞ!!犬夜叉、見てみい!!お前のよりずっと大きい『しゃぼんだま』が出来たぞー!!」

「ああ??」

「ほんと、七宝ちゃん。すごく上手になったじゃない。」

嬉しそうにはしゃぐ七宝の声のする方を見てみると、丸い大きなそのしゃぼん玉は遠目からでもはっきりと見てとれた。

そのしゃぼん玉は、割れることなくふわふわと浮かんでいる。

「見てみろ、珊瑚。あの『しゃぼん玉』は割れないぞ。琥珀の命も、きっとあの『しゃぼん玉』のようにきっと強い。だから心配するな。」

「うん…。」

2人の目に映ったそのしゃぼん玉は、穏やかな優しい風に吹かれて、力強く空高く舞い上がっていった。







*あとがき*

8月、9月に当サイトで実施していたアンケートで1位だったミロサン小説です。
アンケートに応えてくださった全ての皆様に心からの感謝を込めて書かせていただきました。
いかがだったでしょうか??
このお話は、管理人がしゃぼん玉って四魂の玉に似てるよなーって感じたことから浮かんできたお話です。
少しでもお楽しみいただけましたら、とても嬉しく思います。
よろしければ、感想などお聞かせ下さると大変嬉しいです。
それでは、最後まで読んでいただいて本当にありがとうございました。
まだまだ未熟な亀サイトではございますが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

最後に。
今日お誕生日を迎えたお友達のAちゃん。
HAPPY BIRTHDAY!!
一応お祝いのつもりです(^^;)
よかったらもらってやって下さいなー。
これからもよろしくねvv

2008.09.23