コミック未収録分の内容を含みます。
単行本派の方はご注意下さいませ。
珊瑚一人語り。









































「珊瑚、此処で別れよう。」


法師さまから伝えられた言葉は、やはり想像した通りの言葉だった。



法師さまとの距離は幾分か離れているにも関わらず、風穴から漏れる空気が作り出すその風の音は、自分の耳にまではっきりと届いていた。


『もう時間がない…。』


火を見るよりも明らかなその現実が、
先程奈落の策略によって見せられた法師さまの父上の最期と共に、自らの脳裏をかすめていく。



ここで別れてしまっては、もう二度と法師さまに会える事はない。

二人で、
いや、ここまで共に苦楽を乗り越え、共に闘って来た仲間とともに、
無事に琥珀や七宝が待つ楓様の里へ戻れたら、祝言を挙げようと約束したのはほんの数刻前でしかないのに。




『分かってるんだよ、法師さま…。』


貴方が何を考えてるかって事ぐらい。
貴方が何を一番恐れてるのかって事も。
いつもいつもそうだったから。
法師さまは、あたしや琥珀の為に自分の身の危険も省みずに闘ってくれた。
守ってくれた。
どんなに感謝したって仕切れない。
法師さまがいてくれたからこそ、今この世に琥珀とあたしがいる。




だけどね、法師さま。

あたしは守られるだけの、そんな弱い女になんかなりたくない。
天下の退治屋の里の長の娘なんだから。

大切な人の隣で、お互いの背を任せて闘える相棒でありたい。
女好きで見境なくて、どうしようもないけど、
ずっと一人で過酷な呪いと闘い続けた貴方が、本当に必要とする生涯の伴侶はそんな人だと信じているから。
あたしは、そんな人間として貴方に認められた唯一の女だと自惚れていたいから。

貴方があたしを置いて、自らの風穴に吸い込まれてしまう覚悟があると言うのなら、
あたしにも貴方と共にどんな運命でも受け入れる覚悟がある。


そう、これはきっとあの告白を受けるずっと前から。




だから、
だから一人でいなくなってしまったりなんかしないで。

どうか間に合って・・・!!




無意識のうちに、雲母の柔らかな毛並みに置いた手にギュッと力が籠もる。
無言の訴えを肌で感じ取ったその優秀な愛猫は、
自らの背に跨った主人の表情を一瞬伺って、法師を追う速度をより一層速めるのだった。







*あとがき*

1月9日発売分のサンデー収録分の内容です。
その時に突発で書き上げたものなので、その後の本誌の展開とは多少異なりますが。
その辺りは目を瞑っていただけると嬉しいかと(笑)
珊瑚はどんな思いで弥勒を追いかけたのかなって考えながら書きました。
読んで頂き、ありがとうございました。