呪泉洞でのサフラン達との闘いが終わって。
挙げるはずだった俺とあかねの祝言も、結局挙げられずじまいで。
俺の変身体質も改善されないまま、また日常が戻ってきた。
それでも、俺とあかねの関係は、ちょっとだけ前進できたんじゃないかと俺は思ってるんだけど、あかねの奴はどうなんだろう。





One Love




「「行ってきまーす。」」

今日も俺たちは、天道家から一緒に学校へ登校する。
あかねを上から見下ろせるフェンスの上は、もうすっかり俺の定位置だ。

「乱馬、あんた今日ちゃんと傘持って出てきた??」
「はあ??こんなに晴れてんのに、傘なんて必要なくねえか??」
「何言ってんのよ。今日は午後から雨が降るって天気予報で言ってたから、傘用意しとくようにって、かすみお姉ちゃんに言われたでしょ。」
「そうだっけ…??全然覚えてなかった。」
「知らないわよ、帰るときずぶ濡れになっても。」
「そう言うあかねは、持ってきてんだろうな??」
「当たり前でしょ。ちゃんと折り畳み傘、入れてきてるわよ。」
そう言って、自分の傘を鞄から取り出して、俺に見せた。
「なら、帰りに雨降ってたら、あかねが入れてくれりゃいいじゃん。どうせ一緒に帰るんだから、問題ねえだろ。」
「それはそうかもしれないけど。そういう問題じゃないでしょ。」

『はあ』、といかにもわざとらしい溜め息を一つ。
「いけない。このままじゃ遅刻しちゃう。乱馬、あんたも急ぎなさいよ!!」
そう言って、一人先に走り出したあかねを俺は慌てて追いかけた。



「やっぱりね…。」

今日一日の授業が、全て終わった放課後。帰ろうと外に出てきたら、案の定大雨で。
朝の晴天はどこへいったのかと疑うほど、バケツをひっくり返したように大粒の雨が、地面を叩きつけていた。

「だから言ったのよ。」
「んなこと言ったって、忘れちまったもんは仕方ねえだろ…。あかね、悪いけど傘入れてくれ。」
「それは構わないけど、この傘2人で入るには小さいよ。」
「いいよ、別に。ちょっとくらい濡れても。じゃ、帰ろうぜ。」

まだ納得しきっていない顔をしているあかねの手から、強引に傘を受け取ると、仕方なく俺の差す傘に入ってきたあかねと共に、帰り道を急ぐ。
あかねが言ったように、この折り畳み傘は思っていた以上に小さくて、あかねが濡れないように気を遣っていた俺は、ほとんど傘の中に入ることは出来ず、あっという間に女の姿になってしまった。
認めるのは悔しいけど、女の俺はあかねよりずっと背が低い。この状態で俺が傘を持っているのは、少しばかり困難なことだった。

「乱馬、傘貸して。女の姿だと持ちにくいでしょ??私が替わるから。」
「いいよ、別に。問題ねえし。それに忘れてきたのは俺なんだから、これくらいさせてくれ。」
「強情っぱり…。」
「んだと!?」

「なんだよ、やる気か??」といつもなら続くはずの言葉は、今日は俺の口から出てくることはなかった。
だってあかねが、なんだか辛そうな顔をしてるような気がしたから…。

実はこのことは、今日に始まったことじゃないんだ。
呪泉洞から帰ってきて以来、あかねは俺が女の姿になると、どこか辛そうな顔をする。
ほんの些細な表情の変化だから、他の人間には気がつかないかもしれないけど、ずっとあかねを見てきた俺には分かるんだ。

その後、何となくぎくしゃくしてしまって、お互い一言も言葉を発することなく、いつの間にか天道家に帰ってきていた。



あかねの奴、一体どうしたってんだ??
俺が水を被ると女になってしまうことなんて、もう当たり前のことだ。
呪泉洞に行くまでは、全くそんな様子を見せなかったのに。
家に帰ってくるとすぐ、「風邪をひくから。」と風呂場に直行させられた俺は、湯船につかりながらそのことを考えていた。
『もしかしてあかねのやつ、俺が女になるの、嫌になったのかな…。』
考えられないこともなかった。だって、俺自身がそうだから。
もちろん、このふざけた変身体質は、昔から苦手だ。
だけど、あの呪泉洞での一件以来、俺は以前よりもずっと、あかねのことを意識するようになっていた。
ただの親同士が決めた許嫁じゃない。ただの同居人って訳でもない。
どんなに喧嘩しても、いつも一緒にいたいと思う奴。俺が初めて好きになった、この世でたった一人の大切な女性。
それをはっきり理解させられると、この男か女か分からない自分自身に苦しくなる。
あかねを救うためだけに使いたかった呪泉郷の水。あの時のことは何も後悔してない。
(あの後、ジジイが男溺泉を酒と間違って飲みやがったのは、今でも許せねえけど。)
それでも、これとそれとは別問題だと思う。だからあかねがそう思ってたって、不思議なことじゃない…。

「あのね、乱馬。聞こえる??」
「え??あ、あかねか??」
「着替え、ここに置いとくから。お風呂から上がったら、これ着てね。」
「お、おう。ありがと。」

そう言うと、あかねは脱衣所から出ていったみたいだった。ぎくしゃくした感じは、帰った時から何も変わってない。
いつもの喧嘩とは違う、居心地の悪い空気が俺を取り巻いている。
『このまま一人悩んでても、どうしようもねえな。今夜、あかねに直接聞いてみるか。』
そう決意して、俺は風呂から上がった。



家族揃っての夕食の後、テレビを見ていた皆に一言告げると、あかねは先に自室へ戻っていった。
しばらくしてから、俺も一つの決意を胸に、あかねの部屋へ向かう。
「あかね。起きてるのか?入ってもいいかな??」
「うん。」
あかねの返事を待ってから、俺はドアノブを回して部屋に入る。
あかねはパジャマ姿で、何をするでもなくベットに腰かけていた。
「悪い。寝るとこだったのか??」
「別に、そういう訳じゃないけど…。それより、あんたこそどうしたのよ??」
「いや、ちょっとさ。あかねに聞きたいことがあってよ。」
「聞きたいこと??」
「ああ…。」

いざあかねの前で口に出そうとすると、急に不安になってしまう。
あかねは何て答えるだろうか。変身体質の俺なんか嫌いだなんて言われたら、俺はどうしたらいいんだろうか…。

「一体なんなのよ。言いたいことがあるなら、早く言いなさいよ。乱馬らしくもない。」
俺らしくない、か…。確かにそうかもしれない。たった一人の女の行動一つで、こんなにも右往左往しちまってる。
仕方ない。俺は覚悟を決めた。

「あのさ。あかねは俺のこと、どう思ってんだ??」
「え??」
「えっと、だからさ…。今日学校から帰る時、なんかお前変だったからよ。俺、お前を怒らせるようなことしたかなって思って…。あ、傘忘れちまったのは悪かったけどよ。お前も濡れちまった訳だしな。」
「変ってどういう意味よ。そんなんじゃないよ。別に、何も怒ってなんかないわ。」
「そうか…。それならいいんだけど。でもさ、お前最近、俺といる時いつも辛そうじゃねえか??もしかして俺と一緒にいるのが嫌なんじゃねえの??特に、俺が女になってるときとかさ…。」

言ってしまった…。声がだんだん小さくなってきてるのは、自分でもよく分かった。だけど、もう後には引けない。


あかねはうつむいたまま、何も答えなかった。沈黙が2人の間を流れる。
どれくらいの時間が経ったのか分からない。もしかしたらほんの数分だったのかもしれないけど、俺には何時間にも感じられた。
そして、ようやくあかねが口を開く。

「あんたと一緒にいるのが嫌なんて、思ったことなんかないわよ…。だけど、あんたが女の姿になった時はね、正直言うとちょっと辛いんだ。」

やっぱりな。そうだよな、誰だってそう思うだろう。

「だって、今でもあんたが変身体質なのって、私のせいじゃない。」
「は??」
がっくりと肩を落とした俺に、続けてあかねから返ってきたのは、俺がまったく予想してなかった言葉。
「だって、あの時私を助けようとして、竜の蛇口を壊しちゃったせいで、乱馬は元に戻れなかった訳だし…。」
「お前、なに訳分かんねえこと言ってんだ。あの時はあれでよかったんだよ。あの時も言っただろ。呪泉郷の水、あかねのためだけに欲しかったって。お前が死んじまったら、元の体に戻れたって意味ねえし…。」
そんなことで悩んでたっていうのだろうか。この様子じゃ、あの後で、男溺泉が届いた時のことも忘れちまってるんじゃねえか。

「でも…。乱馬がずっと元の体に戻りたがってたの、よく知ってたし…。」
「だあぁ!!俺がいいって言ってるんだから、それでいいんだよ。お前のせいなんかじゃ絶対にない!!それより、俺はお前が俺の変身体質のせいで、俺のこと嫌いになっちまったんじゃねえかって心配してたってのに。」

「へえ。あんたそんな心配してたんだ…。」
言ってから、しまったと思った。これじゃ俺が、あかねに嫌われるのが怖かったって言ってるのも同じだ。
「な、勘違いすんじゃねえぞ。俺はお前みたいな可愛くねえ女に嫌われたってどうってことねえんだからな!!」
「何よ、それ!!可愛くなくて悪かったわね。そんなことある訳ないって言おうと思ったのに。」
「……え??そ、それほんとか…??」
「当たり前じゃない。だって男の姿でも女の姿でも、らんまは乱馬だもん。嫌いになんかなれる訳ないじゃない。今までだってずっとそうだったし。私だって、乱馬に嫌われたらどうしよう、ってずっと不安で仕方がなかった…。」

最後の方は消え入りそうなほど小さな声で、ほとんど聞き取ることが出来なかった。あかねの大きな瞳から、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ちる。
それを見て、俺は慌てた。何度見ても慣れない、あかねの涙は。どうしたらいいのか分からなくて、思わずあかねの顔を自分の胸に押しつけていた。
「なる訳ないだろ…。あかねのこと嫌いになるなんて、絶対無理だ…。」

なんだ、結局あかねも俺と同じだったんだ。
お互いの事が好きだから、嫌われたくなくて。
でもどんどん大きくなってくこの気持ちをどうしたらいいか分からないから、一人で勝手に悩んで落ち込んで。
俺の腕の中で泣き続けるあかねを抱きしめながら、そんなことを考えた。

『結局俺たちって、似た者同士なんだよな…。』


そんな2人の様子を、あかねの部屋の前で見守っていた、もとい盗み聞きしていた5人がいた。
仲直りできた2人に安心した表情と同時に、何か企んでいる様子の5人が。



翌朝。今日は日曜日。
結局、あの後俺はあかねの部屋で一晩過ごした。泣き疲れたあかねはそのまま俺の腕の中で眠っちまったから、動くに動けなかった。規則正しく漏れてくるあかねの寝息とか、無意識にすり寄ってくる身体とか、正直言うとかなりキツかったけど、それ以上に離したくないって気持ちの方が強かったから。

親父やおふくろ達に、一晩中あかねの部屋にいたことがばれるのは気まずいので、2人別々に居間へと向かう。
俺が下に降りた頃は、既に家族全員起きていて、朝食の準備が終わったところだった。
「おはようございまーす。」
「「おはよう、乱馬君。」」
「「おはよう、乱馬。」」
「あら、おはよう乱馬君。ちょうど朝ごはんの準備が出来たところなの。みんなでいただきましょうか。」
家族みんなと挨拶を交わした後、いつもと同じように朝食をとる。

そろそろ食事を終えようかという頃、突然早雲のおじさんが立ち上がり、何かを持ってきた。
「乱馬君、あかね。実は2人に渡したいものがあるんだ。」
「俺とあかねに??」
「私と乱馬に渡したいものって何??お父さん。」

「うむ。実はだね、2人に婚前旅行に行ってもらおうかと思ってね。」
「「はあ????」」
「実はね。昨日、商店街でやってる抽選会で、『中国旅行ペアご招待』っていうのを当ててきたのよ。お父さんが。」
とかすみが付け加えた。
「2人しか行けないんだったら、あかねと乱馬君が行けばいいじゃないって話になったのよ。ちょうど中国なら、なにかと都合もいいでしょう??呪泉郷の水、元に戻ったって話だし。」
となびき。
「素敵じゃない!!是非行ってらっしゃいな、乱馬、あかねちゃん。」
とのどか。
「わしの分の男溺泉もちゃんともらって帰ってくるんだぞ!!」
と玄馬。

「ちょっと待てよ、そんな事急に言われても…。」
「そうよ、それに婚前旅行なんて…。」

「「「「「問答無用!!!!!」」」」」



当事者であるはずの俺たちが呆然としている間に、あれよあれよと話は進んでしまい、気がつけば大荷物を持って、俺とあかねは空港にいた。
ワイワイと盛り上がっていたかと思えば、嬉しさのあまりに突然早雲が泣き出したりして、必要以上に騒がしいギャラリーは、とりあえず無視することにしよう。

「どうするのよ、これから…。」
「ここまで来たら、行くしかねえだろ。」
「うん、そうよね。やっぱり…。」

これでやっと元の体に戻れるんだと思うと、やっぱり嬉しい。
その旅に、あかねが付いて来てくれるってことも、どうしようもなく嬉しい。
そんなこと、絶対に口には出せないけど。

でもこの旅が終わったら、その時は少しだけ素直になってみようと思う。


「じゃ、行くか!!」
「うん!!」


帰ってきた2人に、前よりずっと盛大な結婚式が待ち受けていることを2人が知るのは、ほんの少しだけ未来のお話。







 *あとがき*

初書き乱あ小説です。
最近、どうしようもなくこの2人が好きなので、勢い余って書いてしまいました。
タイトルは、嵐の新曲からもらいました。
幸せいっぱいなあの曲が大好きです。
よろしければ、是非感想をお聴かせ下さると嬉しく思います。
それでは、最後まで読んでくださってありがとうございました。