ただいま。



「随分と遅くなってしまったな。」



そう呟くのは、紫の袈裟を纏った1人の青年法師。

名前を弥勒という。

その生身の右手には、今しがた彼が見つけたばかりのシロツメクサが握られていた。


葉の数は4つ。

遠い異国の国からやってきた少女によれば、
それは『四つ葉のくろーばー』と呼ばれており、
それを見つけると幸せが訪れるとの事だった。

もちろん、それは唯の言い伝え。

科学的な根拠がある訳ではない。



だが、彼にはその言い伝えが確かなものであるという根拠があったのだ。





それは、今よりも随分前の事。

まだ彼の右手には、重々しい呪いが封じ込められていた頃。










「法師さま、これ。」



ある1人の少女が弥勒に差し出したのは、紛れもなくシロツメクサ。

そう、『四つ葉のクローバー』だった。


その少女の名前は珊瑚といって、彼と一緒に旅を続けていた仲間だった。



「はて、これはシロツメクサですな。どうして、これを私に??」


「え、えっとね///かごめちゃんに聞いたんだけどさ…。

 それ、葉が4つ付いてるだろ??『四つ葉のくろーばー』って呼ばれてて、見つけると幸せが訪れるんだって。」


「ほう、それは初耳ですな。それで、これを私に??」


「うん///」



別に愛を囁いた訳でもないし、ましてや口付けを交わした訳でもないのに、珊瑚の顔はもう真っ赤だった。


『たかだか花を手渡したくらいで…。』



いつになってもその手のことに慣れず、初々しい反応を珊瑚は見せる。


そんな可愛い顔を見せられると、どうしてもからかいたくなるのが彼の悪い癖だろうか…。



「ですがその幸せは、見つけた者に訪れるんだろう??
だから珊瑚にこそ幸せは訪れるのであって、私は関係ないんじゃないか??」


「え??あ、そうか…。」



途端にがっかりしたような珊瑚を見ると、弥勒も少し申し訳ないような気持ちになった。



ここは素直に謝ろう。

珊瑚が、自分のためにこの『四つ葉のくろーばー』を探してくれたことがこの上なく嬉しかったのは本当だ。



そう思って、弥勒が口を開きかけたその時だった。






「でもさ。
 私の幸せは、法師さまが幸せになることだから。
 だから、これはやっぱり法師さまにあげるよ。」



そう言って、珊瑚は弥勒の手にそのクローバーを握らせる。



「///」


今度は、弥勒が照れる番だった。

不覚にも、顔が赤くなるのを抑えられない。


赤くなった顔を見られたくなかったのか、
はたまた別の理由かは、弥勒自身も分からなかったけれど。



気が付けば、弥勒は珊瑚を思いっきり抱きしめていた。



「ちょ、ちょっと法師さま///苦しいんだけど…。」


腕の中の珊瑚の苦しそうな声さえも、弥勒には聞こえていなかった。



「ありがとう、珊瑚。」


「///どういたしまして。」










それから幾年。

珊瑚と弥勒自身を苦しめ続けていた奈落の存在はなくなった。

共に旅を続けていた仲間たちも、各々の幸せを手に入れた。


あの時もらった『四つ葉のクローバー』は、しおりとなって今も弥勒の手元にある。

そしてそのクローバーは、また新たな幸せを2人に運んでくれたのだ。






奈落の呪いから解放され、晴れて夫婦になった2人の間に、

新しい命が芽生えた事が分かったのはほんの昨日の事だ。



「早く帰らないと、珊瑚が心配するな。」


袈裟についた土を払い落とし、弥勒は家路を急ぐ。



「ただいま。」と言えば、「お帰り。」と応えてくれる人がいる。


愛しい人が待つその家は、

根無し草だった彼がようやく手に入れた、彼の帰るべき場所。









 *あとがき*

お題2つ目を消化。
ミロサンの日に間に合わなかった…orz
この手の話は、書いてて恥ずかしくなるけど、大好きです(笑)
読んでくださってありがとうございました。
3/7 2008