|
星月ころん様より戴きました。 霧月のリクエストは『初々しい若ロイアイ』でした。 あの丘の向こうにも、また同じ丘があることを。 決してあの丘を越えたところで、世界が変わるわけでもないことを。 知っていたんだ。 さくらんぼの実るころ 少女はクローゼットをガラリと開けた。 古ぼけた小さなクローゼットの中には、それでも少しの服しか入ってはいない。 そのことは開ける前から知っていたのだが、少女はその光景にやはり肩を落とした。 何を着ていこうか、迷う必要さえない。 クローゼットにしまわれた服は、どれも似たり寄ったりの色合いで、 どれもが、まるで埃を被ったかのように色あせていた。 その一番奥に眠る、比較的部屋着ではない一着を取り出して、少女はそれを自身の身体に宛がった。 そして、机の上に置かれた小さな鏡に自身を映す。 「……、」 他に選択肢もなく、少女はその服に袖を通した。 それから、机の前に腰を落ち着かせて、その小さな鏡と睨みあいをはじめた。 髪をとかし、肩の上で少し跳ねたそれを何度も手で引っ張る。 それから、鏡に映る自分に向かって少女は何度も作り笑いをしては、溜息を零した。 「駄目、ね、」 肌の色を白くするような化粧品もなく、 少女はやはり、何度も作り笑いをしてはため息を零す、一連の動作を繰り返した。 それでも、何故だか逸る気持ちを抑えきれずに、ペチペチと頬を叩いてから、 鏡の前を後にした。 他の物にしたかったが、やはりそれ1個しかない鞄を少女は肩にかけ、 こっそりと足をしのばせ、階段を下る。 しかし、足音を消そうとすればするほど、 キシリッ、キシリッと古ぼけた木の階段は悲鳴を上げる。 「リザ、出かけるのか?」 「っ!?」 突如、投げかけられた声に、少女は背中を大きく震わせた。 慌てて、振り返ったそこに、少女の父親が立っていた。 思わず、足をすべり落としそうになる驚き具合に、さすがの父親も不審を感じたのだろう、 疑惑の眼差しを向けられる。 その少し人間離れした不思議な瞳で、少女はじっくりと観察されたような不思議な感覚を覚えた。 「えっと、その、散歩にでかけようかと…一人で、」 「そうか、」 聞きなれた低い声で、父親は頷くと、少女はほっと胸をなでおろした。 いつもどおり、夕食の買い物だと、言えばよかったのに…、 と、少女は言ってから後悔するが、言ってしまったものは仕方がない。 不思議と後ろ髪を引かれる思いもしたが、少女はそれを振り払って、再び階段を下る。 「いってきます。」 振り返り、見上げた階段の上にすでに父親の姿はない。 大方、再び研究室にこもりなおしたのだろう、次に出てくるのは何時間後か、何十時間後か。 いつも買い物をする、いつもの通りを歩く。 今日は、いつにもまして、爽やかな青空が何処までも天井には続いていた。 足取りは何故だか、軽いような重たいような気がする。 いつもとなんら変わりないはずなのに、少女は自分が好奇の目に睨みつけられているような気が、 もちろん錯覚なのだが、してたまらなかった。 「変、…?。」 少女が、きょろきょろと辺りを見回していると、知っている顔を見つけた。 この辺りでは珍しい黒髪は、とてもよく目立つ。 電燈にもたれかかり、何処か物憂げに空を見渡すその姿に、少女は一瞬魅入ってしまった。 まるで魔法でもかけられたかのように、その場に棒立ちになってしまった少女を、 今度は、彼のほうが見つけ、にっこりと笑みを浮べて少女に近寄ってくる。 全身の血管が、ドクリと肺を締め付けた。 「探したか?」 「いいえ、大丈夫、です。」 やはりこの辺りでは珍しい黒い瞳に、ゆっくりと少女は写された。 館の外で、彼を見たのは初めてだった。 彼は少女の父親の元に弟子入りを果たし、少女の住んでいる館によく出入りしている青年。 人嫌いの父親が、何故だか認めて気に入られているのが少女は不思議でたまらなかったが、 太陽の光にエキゾチックに反射するその黒髪がまぶしかった。 「あの、今日は何か?」 「あぁ、少し買い物に付き合ってもらえるかな?」 ぶわりと舞った風で、せっかく直してきた少女の髪の毛が揺れた。 「あの、」 彼につれられてこられたのは本屋。 そこは、注文すればどんな本でも取り寄せてくれ、また専門書も幅広くおいてあるので、 少女の父親もよく利用していた。 そして、注文した本をよく受け取りに少女は使わされていたので、馴染みと言えばなじみの店だった。 「師匠(せんせい)の名義で本を注文したんだ。」 「はぁ、」 いやな予感がした。 「君なら顔パスで受け取れると、師匠に聞いてね。」 「…つまり、父もしってるんですね?」 「…?もちろん、言い出したのは師匠だぞ。」 少女は店員から受け取った本を、ぶっきら棒に彼に突きつけた。 彼は欲しかった本が手に入ったのが余程嬉しかったのか、極めて満足そうに笑っていた。 しかし、少女にはそれすら気に食わなかった。 本を渡した少女は、家路に向かおうと踵をかえした。 とてつもなく、馬鹿馬鹿しく思えてたまらなかった。 彼に逢うまでの自分の一連の行動を思い出すと、それを超えて情けないとさえ思えた。 家路をたどる少女の後ろから彼がついてくる。 「リザ、どうした?」 優しい彼の声が耳に届く。 しかし、今の少女にはその声すらも気に入らなかった。 「なんでもないです。」 「なら、何をそんなに怒っている?」 怒りなどではない。 独りではしゃいで、 勝手に喜んで、不貞腐れたりしてみたり、 「疲れました。」 ただ、彼に逢うまでの一連の行動は、 自分の一人相撲だといわれたような気がして、虚しかった。 少女の耳元で溜息が漏れる音がした。 すると、次の瞬間、彼女は彼に腕をつかまれた。 「君は本当に分かりやすいな。」 「何がですか。」 「よく似合ってるよ、服。髪型もいつもとちがうね。」 「何を…。」 「そう言って欲しいと顔にかいてあるぞ。」 「嘘です。」 目の前の彼に、そうやって全てを見透かされているような気がした。 いつも思っていることを、決して顔には出さまいと思っていることを、彼は見透かす。 すっかり黙り込んでしまった少女は、彼の大きなその手で頭をワシワシと撫でられた。 そして、少女が見上げたそこで、彼はにっこりと笑った。 「奥の通りに、美味しいアップルティを出す店があるんだ。 せっかく、リザと外で逢える口実を頂いたんだ、」 自分がつくづく子どもだと、少女は思う。 頭を撫でられたり、ご機嫌取りをされたり。 「お礼にお茶に付き合ってはくれないかな、レディ?」 「なっ、」 少女は一気に頬を高潮させた。 そして、つかまれた腕を乱暴に振りほどく。 すると、やはり、笑顔が混じった優しげな黒の瞳につかまった。 高嶺星の管理人様、星月ころん様から、リクエストの『初々しい若ロイアイ』小説を戴いてしまいました(>_<) もう、リザちゃんが可愛すぎて・・・ 一人怪しくウハウハ言ってしまいました(--;) ロイに振り回されながらも、愛されてる感じが大好きです!! ころんさん、本当にありがとうございましたvv |